ウナギの寝床のような細くて切り立った穴毛谷の下部、穴毛大滝を越えれば広々とした開放的な杓子平。稜線へと続く斜面は初級者から上級者までよりどりみどり。稜線に立つと、東に穂高と槍が白黒の屏風のように聳える。歩き出しから稜線までが、まるで物語のように景観が変化していく。滑りヨシ!眺めヨシ!如何せん、標高差が1700m以上あり、気軽にチョコチョコ登ろうという気にはなれないなあ・・・。
行程が長いので、早く出発したいところ。早く出発したはずなのに、新穂高を出たのは6時を回っていた。まあ、日も長いことだし、暗くなるまでに林道に戻ってくればいいだろう・・・。長期戦の構えだ。新穂高から見ると、パックリ割れている穴毛谷。これまで何度も新穂高に来ているが、意識してみたのは初めてだった。双六方面への林道を歩き始め、ヘアピンを過ぎるとすぐに穴毛谷出合。橋は少し上流に架かっていた。工事用の道路で穴毛谷の左岸を進み、巨大な堰堤や埋まってしまった堰堤をいくつか越える。そろそろ崩れそうな雪を渡って右岸へ。正面には雪渓のつながった二ノ沢が見える。しかし、穴毛沢はいったん雪が切れていた。
右に曲がって穴毛沢へと入る。スキーブーツでのゴーロ歩きはなんとも歩きにくい。靴ズレができそうだなあ・・・とか思いながら歩いていると、雪渓末端の間には水量豊富な流れが・・・。濡れずに渡るのは無理。ふと見ると、左をへつるルートがあった。沢靴ならなんでもないだろうが、スキーブーツでのへつりはちょっと・・・。T世さんの顔はかなり引きつっていた。へつりを終えてやっと雪渓の上に立つことができた。
杓子平を登っていくと、次第に穂高・槍が見えるようになってくる。風下側にあたるので槍・穂高の山肌はほとんど岩がむき出しで、谷筋に雪が残っている程度だった。杓子平から見る限りでは、気持ちよく滑れそうな谷は飛騨沢くらい。最後は雪庇のないところから稜線に這い上がる。標高差1700mを登って来たそ。稜線を北へ少々で抜戸岳へ。抜戸岳あたりはまだ大きな雪庇が残っていた。黒部源流の山々がよく見えたが、どうも雪が少ないようだ。双六の馬の背など全く雪がついてなくて、黒々としていた。双六小屋から樅沢岳への斜面も真っ黒。GWの終わりともなれば、こんなもんなのか・・・?
時間も時間だし、稜線上は風が吹いており寒い。無理やりビールを飲み、休憩もそこそこに滑り始めることにする。稜線からの滑り出しはやや急だが、一段降りると快適斜面となる。硬い下地の上にザラメが乗っているような感じで、抵抗がなくてとても滑りやすい。ザラメとしては今シーズン最高のコンディション!止まるのがもったいないので、どんどん滑ってあっという間に高度が下がっていく。少し前に滑り始めた神奈川(だったっけ?)からの夫婦(?)に追いついた。
杓子平を過ぎて沢形に入ると雪が緩んできて、ベストコンディションではなくなってくるが、それでも気持ちのよい滑降は続く。大滝上でいったん板をはず。大滝を上から見ながらルンゼ状の斜面を下る。さすがにここまでくると雪渓滑りのようになる。両岸が切り立っているので落石もたくさん。常にカシャンカシャンと石を踏む音を立てながらの滑り。でも、小石はたくさん落ちているものの、大きな石はほとんど落ちていなかった。あと、デブリも厄介なものはほとんどない。大きな支流が出合うところにデブリはあったが、割と平にならされており、滑るのに苦労はなかった。概ね気持ちよく滑れる雪で雪渓の末端まで降りることができた。雪渓末端から6時間かけて登ったところを、わずか50分で下ってしまった。標高差もあるし、雪もよかったので、大満足の滑りであった。
問題はまたへつり。下りベースなので厄介だ。ボクがまずゴーロまで行って、荷物を置いてまた雪渓に戻る。そしてT世さんの荷物を持ち、T世さんは空身でへつる。まあ、なんとかジャブジャブ渡渉する最悪の事態だけは逃れることができた。あとは長いゴーロ、堰堤の工事道、林道を歩いて新穂高に戻るのだが、板をはずしてからこの間で今日の疲れが一気に出た。長い行程だったが、充実した山スキーを楽しむことができた。穴毛谷はまた来てみたいエリアだ。行程が長いのがネックだが、今度は笠ヶ岳からの滑降でも計画してみたいところだ。そうそう、帰りの新穂高で偶然MBに乗ったN田君に遭遇。日帰り飛騨沢をやってきたらしい。
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